防水・耐震改修会社のサイトは、なぜ管理組合にもビルオーナーにも届かないのか?

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Webマーケティングシナリオ

防水・耐震改修のような大きなお金が動く建築関係の仕事は、ほとんどが人とのつながりで仕事が回っているのではないかと前々から感じていました。

そこで、ネットで新規開拓するためのシナリオを考えてみます。事例ではありません、実在する企業でもありません。個人的に勝手に考えた改善シナリオです。

なお、この記事でいう「ビルオーナー」は、オフィスビルだけでなく、賃貸マンションや病院、工場といった建物を持つ法人も含めた呼び方として使います。

株式会社H改修は、いったいどうやって仕事を確保しているのか

株式会社H改修は、地方都市に本社を置く改修工事の専門会社とします。屋上やバルコニーの防水、外壁の補修、耐震補強までを手がけていて、分譲マンションの大規模修繕もあれば、オフィスビルや病院、工場の防水改修も手掛けています。工事の規模は、部分的な防水改修なら数百万円程度、マンション一棟の大規模修繕になると数千万円から億単位になります。

新規案件の入り口は、大きく三つあります。

ひとつは管理会社系の会社やゼネコンからの下請け。もうひとつは、設計コンサルタントから届く見積もりの依頼。そして、法人の既存顧客からのリピートと紹介です。営業は社長と数人のベテラン社員が担っていて、長年の付き合いで仕事が回っています。

社長は元請けとして直接受ける仕事を増やしたいと考えていますが、人脈で広げられる範囲には限りがあり半ば諦めています。今後、ベテランが引退したら、その人のつながりごと仕事が減っていく心配もあります。また、下請けや見積もり参加が中心だと、価格を決めるのはいつも相手側になってしまうのも気になります。

サイトは10年前に作ったものがあり、見てみると決して悪くありません。

※架空の会社『H改修』のサイトイメージです

工法ごとの解説、材料メーカーの認定証、技能士の資格を持つ職人が何人いるか、施工実績の写真などの情報が載っていて、ある程度の知識がある人が見れば「ここなら大丈夫かな」と判断できる材料は掲載されている状態です。ただ、サイト経由で新規案件が決まったことはこれまで一度もありません。

発注するのは誰で、どう探しているのか

素人の私から見ると「説明が専門的すぎるのでは」と感じました。塗膜防水とシート防水の違い、下地の状態に応じた工法の使い分けなど、建物に詳しくない人が読んでもわかるように、もっとかみ砕いて書いたほうがいいような気がしたのです。

ただ、これは半分合っていて、半分間違っていました。

このサイトは、これまで仕事をくれていた人に向けて作られているようです。つまり、設計コンサルタントやゼネコン、管理会社の担当者です。彼らは工法の違いも材料の認定も分かっているので、専門的な説明をしたほうがむしろ信頼につながるのです。長年そういう相手と仕事をしてきた(下請けの)会社が、そういう相手に向けたサイトを作るのは、ごく自然なことだったのです。

ここで、この業界の少し特殊な構造について触れます。

大規模修繕では、お金を出して工事を発注する人と、業者を選ぶ人が分かれていることが実は多いのです。分譲マンションの場合、発注者は管理組合です。ただ、管理組合が自分で業者を探してくるケースはあまりありません。管理会社に調査から工事までまとめて任せる方式もあれば、施工会社に調査から施工まで一括で頼む責任施工方式もあります。設計コンサルタントが調査と仕様書づくりを担い、そのうえで施工会社を見積もり合わせで選ぶ設計監理方式もあります。

どの方式でも、候補の業者を連れてくるのは、多くの場合、間に入る専門家です。

最初に書いた「人とのつながりで仕事が回っている」というのは、たぶんこの事なんだと思います。改修会社にとってのつながりは、発注者本人ではなく、間に入る専門家とのつながりなんです。

H改修が今後増やしたい元請けの仕事は、発注者が直接連絡してきた時に発生します。ところが今のサイトは、間に入る専門家に向けて作られているので、発注者が見ても伝わらないのです。

さらにややこしいのは、発注者がひとつの層ではないことです。管理組合と、ビルオーナー。同じ防水改修の相談でも、この二者は探し方も、関心がある事も全く違います。

修繕委員会は「素人目線」で探している?

分譲マンションの大規模修繕を検討するのは、多くの場合、理事会や修繕委員会です。メンバーは住民で、普段、建物のことなど考えたこともなかった人が、ある日、修繕工事の検討に関わることになるわけです。

この人たちが最初に検索するのは、工法の名前ではないと思います。「マンション 屋上 雨漏り 業者」のように、困っている症状から探すでしょう。

管理会社から大規模修繕の時期だと言われて、「修繕委員会 何から手をつける」とAIで調べる人もいるはずです。この段階で知りたいのは、自分たちが何を決めなければいけないのか、どんな順番で進むのか、という情報です。

余談ですが、修繕委員の立場を想像してみると、工事の失敗よりも怖いものがある気がしています。総会で住民から「なぜこの業者なのか」「高すぎないか」と問われることです。委員の多くはボランティアに近い立場で、しかも毎日顔を合わせる隣人に向けて説明しなければなりません。業者に言いくるめられたと思われるのが、一番つらいはずです。

そこに、最近のニュースが重なります。2025年3月、公正取引委員会が関東地域のマンション大規模修繕工事をめぐる談合の疑いで工事会社20社超に立ち入り検査を行い、同年4月には対象が約30社に広がったと報じられました(出典:日経クロステック、2025年4月30日)。談合の温床と目されているのが、設計コンサルタントが工事会社の選定を主導する設計監理方式で、コンサルの業務から工事会社の選定を外す試みも始まっているそうです(出典:日経クロステック、2026年4月21日)。今年7月には、施工会社と設計コンサルタント計40社に独占禁止法違反が認定され、そのうち38社に排除措置命令が出される見通しだとも報じられています(出典:ダイヤモンド・オンライン、2026年7月)。

ここからは私の考えですが、こうした報道に触れた修繕委員の中には、「間に入る人が連れてきた業者を、そのまま信じていいのか」と疑う人が増えたはずです。そういう人は、自分で調べます。「大規模修繕の業者に騙されないためには?」のようなプロンプトで、比べるための材料を探しに来るはずです。

この人たちが求めているのは、工法の説明ではありません。進め方の全体像、見積もりのどこを見ればいいのか、住民にどう説明すれば納得されるのか。

つまり、素人の自分たちが判断するための信用できる情報です。

ビルオーナーは「事業の物差し」で探している?

一方のビルオーナーは、同じ防水改修をまったく別の物差しで見ていると思います。

ビルオーナーにとって、建物は事業の資産です。窓口になるのは社内の施設担当か、委託先の管理会社であることが多いでしょう。判断の軸は、工事費そのものより、工事がテナントや事業にどう影響するかだと思います。

オフィスビルなら、工事の音や足場でテナントの業務に支障が出ないか。賃貸マンションなら、入居者の不満が退去につながらないか。病院や工場なら、診療や操業を止めずに進められるか。「テナント 入居中 外壁改修」のような検索には、そういう心配がにじんでいる気がします。

大事なのは、ビルオーナー側の担当者も、最終的には社内で説明しなければならない立場だということです。上司や経営陣に「なぜこの会社で、なぜこの時期なのか」を通さなければならない。求めているのは、工事中の運営が具体的にイメージできる情報と、社内の判断材料になる情報です。

関心が違うのに、同じ伝え方をしても、どちらにも刺さらない

並べてみると、二つの層のズレがよく分かります。修繕委員会が恐れているのは、素人の自分たちが判断を誤って、住民に責められることです。ビルオーナーが恐れているのは、工事がきっかけでテナントや事業に支障が出ることです。

H改修のサイトは、この二者を同じページ、同じ文章で説明してる状態です。しかも、その文章は専門家向けの専門用語です。修繕委員が読めば難しすぎるし、ビルオーナーの担当者が読んでも、自分たちが関心がある話が出てこない。どちらにも向いていないから、どちらにも届かないんです。

これは私の考えですが、この業種のサイトで一番もったいないのは、ここだと思っています。工法の知識も施工の実績もあるのに、それを見るユーザーに合わせてわかりやすく伝えていないのです。

そこで、入り口となるページを別々に分けて、それぞれの不安を解消する流れにするだけで、問い合わせの数は少し増えるはずです。

ページを分ける前に、自分たちの強みを言語化することが必要です。

強みは「居ながら工事」の段取りにあるはず

成果を出すには、結局は自社の強みで戦うしかない、と私は思っています。ただ、強みは自分たちでは見えにくいものです。そこで、もしH改修の社長にインタビューするとしたら、という想定で書いてみます。

「御社の強みは何ですか」と聞くと、おそらく技術的な難しいことを話されると思います。このような資格を持った職人がいること。自社施工で品質を管理していること。どれも本当のことですし、大事なことです。

でも、同じ業種のサイトをいくつか見ると、どこも同じようなことを言っています。発注者から見れば、どこも同じように見えるのです。

「いちばん大変だった現場は?」と質問を変えてみる

そこで、聞くポイントを変えてみます。強みを直接聞くのではなく、具体的なリアルな現場の話を聞いてみます。例えば「これまでで一番大変だった現場はどこでしたか」「元請けから名指しで呼ばれるのは、どんな現場ですか」と。

「住んでる人が多くて、うるさい現場は、だいたいうちに回ってくるんですよ」

社長の口からはさらっとこんな答えが返ってきました。

大規模修繕は、人が住んだまま、あるいはテナントが営業したまま進める工事ですが、足場がかかり、洗濯物が干せなくなり、バルコニーの私物を動かしてもらい、音や臭いへの苦情が来ることが多いのです。

実はH改修は下請けとして、元請けに代わってこうした住民対応を長年現場で引き受けてきているので対応ノウハウがあります。掲示物の出し方、住民説明会の段取り、苦情が来たときの初動。工程表には載らない、居ながら工事の段取り力は実は強みなのです。

社長や現場の人にとっては当たり前すぎて、強みだとは思っていなかったかもしれません。むしろ、面倒な仕事を押しつけられてきたという感覚すらあるかもしれません。でも、そこにこそ他社にはないキラリと光るものがあると思っています。

強みはひとつ、でも伝え方は二つ

この強みが面白いのは、二つの層にそれぞれ違う言葉で届くことです。

修繕委員会に向けては、「住民からの苦情を、理事会が抱え込まずに済む」と伝えられます。委員が本当に避けたいのは、工事中に住民から責められることなので、ここに一番の安心があるはずです。

ビルオーナーに向けては、「テナントの営業を止めず、退去の火種を作らない」と伝えられます。事業の物差しで見ている人にとっては、工事の品質と同じくらい、工事中の運営が大事だからです。

強みはひとつで、言い方が二つ。ページを二つに分ける意味が、ここでようやくはっきりします。

二つの層に向けたコンテンツとコンバージョン

管理組合向けには、修繕委員会がどんな順番で何を決めていくのかという全体像を、施工会社の立場から正直に書くコンテンツが合いそうです。

住民説明会をどう運営したか、工事中にどんな苦情が来てどう対応したか、という話は、居ながら工事の強みをそのまま伝えられます。見積書のどこを見ればいいのかを開いて見せる姿勢は、業界への不信に対するひとつの答えにもなると思います。コンバージョンとしてはは、委員会でそのまま配れる進め方の資料請求や、修繕委員向けの無料勉強会あたりが入りやすいのではないでしょうか。

問い合わせのハードルを「工事の相談」から「委員会の進め方の相談」まで下げるイメージです。

ビルオーナー向けには、テナントが入ったまま工事を進めたときの工程の組み方や、事前の告知から完了までの流れを見せるコンテンツが効くと思います。コンバージョンは、現地の診断とあわせて工事中の運営計画まで相談しませんか?という形にすると、事業の物差しで見ている人に届きやすいはずです。

問い合わせのあと、決めるのは「その場にいない人」

また、問い合わせが来て終わりではありません。成約までを考えると、どちらの層にも共通していることがあります。最終的に決めるのが、打ち合わせの場にいない人が多いということです。

修繕委員は、総会で住民に説明しなければなりません。ビルオーナーの担当者は、社内で上司や経営陣に説明しなければなりません。なので、初回の打ち合わせでは工事の内容より先に、「どなたに、どう説明する必要がありますか」と確認しておくのがいいと思います。そのうえで、提案書をその人が説明にそのまま使える形で作れば喜ばれます。

住民向けなら、専門用語を減らし、工事中の生活がどう変わるかを中心に。社内向けなら、事業への影響とその抑え方を中心に。この辺りはAIを使えば見栄えが良い提案書を簡単に作れます。

提案書は、相手を説得するための資料である以上に、相手が誰かを説得するための資料です。そこまで考えて作ってくれる会社は、この業種、いや他の業種でもまだ多くないように思えます。

まとめ

建築関係の仕事は、人とのつながりで回っているのではないか?という仮説から今回のシナリオは考えました。

そのつながりの多くは、発注者本人ではなく、間に入る人とのものだということ。そして、その間に入る人を発注者がそのまま信じにくくなっているのが、いまの空気なのです。

H改修のサイトは、間に入って選ぶ側の人に向けて作られています。発注者が自分で調べ始めたいま、サイトを見るペルソナを修繕委員会とビルオーナーに切り替え、それぞれの不安から入る。そして、居ながら工事の段取り力という強みを、それぞれに伝わる言い方で伝える。これが今回考えた改善シナリオです。

これで売上が確実に増えるとは言いませんが、今のように人のつながりだけに受注を依存せず、発注者が直接問い合わせしたくなるサイトに見直せば、新規の問い合わせは増えていくと思います。

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桑原 敬

この記事を書いた人

桑原 敬(Takashi Kuwahara)

代表/プロデューサー

2003年にフリーランスのWebディレクターとして独立。2006年に株式会社桑原敬事務所を設立し、数多くの企業Webサイトや通販サイトの構築やコンサルティングを手がける。
2006年からレベニューシェアでのWebプロデュースを軸としたビジネスを展開し、これまでコンサルティングを行ったクライアントの中には年商が10倍以上になった実績もある。現在はWeb以外の分野でも、働きかたプロデュースなど幅広い分野で活動を行っている。

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