産業用機械の受託設計・製造会社のサイトは、なぜ「仕様が決まった人」からしか問い合わせが来ないのか?

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産業用機械の受託設計や製造を手がける会社に興味がありサイトを見てみると、どの会社も技術力はありそうなのに、ざっと見ただけでは「この会社に依頼する理由」がピンときません。

書いてあることは間違ってないと思います。ただ、このサイトがどのようなターゲットに向けて情報を伝えているのかが、うまく伝わってないように感じました。

そこで私なりのサイト改善シナリオを考えてみたいと思います。なお、今回取り上げる会社であるM機工は実在しません。架空の会社を設定して、勝手に改善を試みてみました。

M機工は、どのような会社なのか

架空の会社「株式会社M機工」は、地方に拠点を置く中小規模の会社です。工場向けの省力化専用機や検査装置を、構想段階の相談から設計、製作、据付まで請け負っています。

1台あたりの受注単価は数百万円から数千万円。発注する側が検討を始めてから決めるまでには、数ヶ月から半年ほどかかるとします。

これまでの仕事は、取引先からのリピートと、既存客や商社からの紹介が中心でした。あとは年に数回ある展示会への出展です。営業担当は専任ではなく、管理職や設計の人で時間がある人が兼任で打ち合わせにも出る、という体制を想像してください。地方の中小メーカーでは、めずらしい形ではないと思います。

サイトは、会社案内のパンフレットをそのままホームページにしました、といった作りです。会社概要や社長挨拶があり、保有設備の一覧があり、納入実績として装置の写真が少し並んでいます。誠実にやってきた会社であることは最低限伝わります。

この状態でも、仕様が決まっている人からの問い合わせは、ある程度来ると思います。ただ、紹介案件が減れば、ガツンと売上が下がってしまうリスクはあります。まず私が個人的に気になったのは、そこです。

見込み顧客がどのように探しているかをまずは考える

サイトをリニューアルする前に、私は必ず「見込み顧客はどこで、どんな言葉で探しているのか」から考えます。ここがずれていると、サイトをどれだけ改善しても問い合わせは増えないからです。

検索エンジンでもAI検索でも、聞き方はその人が今いる検討段階で変わります。実際に検索しながら、それぞれの段階の心理と、そのとき求めているページを考えてみました。

段階1:困っているが、何で解決するかは分からない

入口になるのは「手作業 自動化」のような検索です。

試しにこの言葉で検索してみたところ、上位には事務作業を自動化するソフトウェアの広告が出てきました。そのほかはポータルサイトが集客用に書いたコラム記事が中心で、中小のメーカーのページもいくつかありましたが、正直なところ見せ方は弱い印象でした。

面白いと思ったのは、工場の手作業の話と、パソコン上の事務作業の話が、同じ検索結果に混ざっていたことです。検索している本人も、自分の困りごとを機械で解決するのか、ソフトで解決するのか、まだ決めていない状態だと考えられます。「人手が足りない」「この作業、なんとかならないか」という漠然とした不満なのでしょう。

この段階の人が求めているのは、特定の会社の情報ではありません。自分の困りごとにどんな解決策がありうるのかという、選択肢の全体像です。

これは私の考えですが、中小の受託設計会社がこの段階を正面から取りにいくのは、あまり得策ではないと思っています。大手やポータルサイトがすでに強く、検索している人の関心もまだ広すぎるからです。

段階2:「作ってもらう」という選択肢に気づく

入口は「専用機 製作 依頼」や「図面なし 機械製作」あたりです。今回、M機工の見込み顧客に近いのは、この段階の人だと考えます。

この段階の人は、既製品では解決しないこと、自社の工程に合わせた機械を作ってもらうという方法があることに気づき始めています。ただ、頭の中にあるのは「この工程をこうしたい」というイメージだけで、図面はまだありません。

ここで生まれるのが、「図面もないのに相談していいのだろうか」という不安です。漠然とした質問をして相手にされなかったらどうしよう、という気持ちもあるかもしれません。技術者ではない担当者なら、なおさらです。

この段階の人が求めているのは、「アイデア段階からでも相談していいんだ」とはっきり分かる情報と、相談したらどうなるのかという具体的な今後の流れです。

余談ですが、このキーワードで表示される広告を見ていて、うまいなと思った会社がありました。試作を請け負う会社で、広告文に「仕様が未確定でも相談OK」のような趣旨のフレーズが入っていたんです。

サイトを見に行くと、サービスのプランが「図面がある人」「簡易的な模型だけある人」「アイデアしかない人」という、相談する側の準備状況で分かれていました。よくある質問の最初の項目も「図面は必要ですか」で、答えは「必要ありません」。

どの段階にいる人が来ても「自分はここだ」と分かる作りになっていました。技術の説明より先に、相談する人の状態に合わせて入口を用意しています。

見せ方がうまいと感じた理由は、ここにあります。

段階3:社内を説得する材料を探す

入口は「専用機 費用 相場」や「省力化 補助金」といった検索です。

作ってもらう方向で話が進みそうになると、担当者は社内を説得しなければなりません。数百万円から数千万円の投資です。上司や経営陣からは「いくらかかるのか」「いつできるのか」「本当にその会社で大丈夫なのか」と必ず聞かれると思います。

この段階の担当者が抱えているのは、失敗したら自分の責任になる・・という不安です。そして、稟議書に書ける材料が手元にないという焦りもあります。

求めているのは、仕様によって費用がどう変わるのかという考え方、完成までのおおよその期間、途中でどんな確認の場があるのかといった、社内で説明に使える情報です。

今の段階で金額をはっきり書けない業種であることは承知していますが、「仕様によってどれぐらい費用が変わるのか」を簡単に説明するだけでも、担当者にとってはかなり助かると思います。

段階4:頼む相手を比べる

入口は「専用機 メーカー」に地域名を組み合わせた検索などです。

ここまで来た人は、作りたいもののイメージが固まり、社内の了承もある程度取れています。あとは、どこに頼めば間違いないかを比べる段階です。

保有設備、対応できる加工、過去の実績。現在のM機工のサイトが用意している情報は、まさにこの段階の人に向けたものです。

ただ、ここに落とし穴があると思っています。段階1から3を経てきた人は、その途中ですでにどこかの会社のサイトを見て、場合によっては相談もしています。

図面がなくても相談に乗ってくれた会社、稟議に使える資料をくれた会社があれば、段階4に来た時点でその会社が本命になっているかもしれません。

比べる段階にだけ情報を置いているサイトは、比べられる前に勝負がついている可能性があるのです。

M機工の強みを、自分たちの言葉にする

どの段階を狙うかが見えてきたら、次は「何を武器に戦うか」です。

成果を出すには、結局のところ自社の強みで戦うしかないと私は考えています。

ところが、自社の強みは自分たちでは分からないことが多い。毎日やっていることは当たり前になってしまうからです。だから私は、リニューアルの前に社長や現場の方にインタビューさせてもらって、強みを言語化するお手伝いをすることが多いです。

M機工にインタビューしたとしたら、たぶんこんな流れになるだろうと想像しています。最初に「御社の強みは何ですか」と聞くと、返ってくるのは「設計から製作まで一貫してできること」「短納期」「技術力」あたりでしょう。ただ、これは同業他社のサイトにもたいてい書いてあります。強みというより、この業界で仕事を取るための前提条件に近いものです。

そこで、聞き方を変えます。最近受けた仕事で、最初の相談はどんな状態で来ましたか?断った案件はどういうものでしたか?お客様から意外に喜ばれたことは何でしたか?

などと聞いていくと、たとえば「図面はなくて、こういう作業をなんとかしたい、という電話から始まった案件が多い」という話が出てきます。

担当者と何度かやり取りして、現場を見せてもらって、こちらで構想をまとめて図面に落としていった、と。設計の方にしてみれば普通の仕事の進め方です。

でも、実はこれがM機工の強みなんです。提供している価値は「図面どおりに作ること」ではなく、「まだ形になっていない困りごとを、一緒に仕様に変えていくこと」だからです。

正直に言うと、この強みを言語化する作業は一人では難しいと思います。社内でやると「そんなの当たり前でしょう」で終わってしまうからです。

外部に人間が見て「それ、他社にはない強みですよ!」と気づけるだけで、出てくる言葉は説得力があるものになります。

強みを伝えるコンテンツと、コンバージョンをどうつなげるのか

強みが言葉になったら、それをどう伝えるかを考えます。これはサイトの細かい作りの話ではなく、コンテンツとして何を置くかの部分です。

まず用意したいのは、構想段階からの相談を受け止めるページです。「図面がなくても相談できます」と寄り添った形にして、実際、相談するとどのような流れになるのか、費用はどの時点から発生するのかを、迷っている人の目線で書きます。

図面や資料は持っていなくて構わないけれど、現場の写真や困っている作業の様子が分かるものがあれば話が早い、というくらいの案内も添えておく。先程の段階2の人が探しているのは、まさにこの情報です。

次に、過去の案件の話も必ず入れましょう。受託設計の実績は、取引先との守秘の関係で詳しく出せないことが多いと思います。それでも、装置の仕様は伏せたまま、相談を受けた時点でお客様がどのような課題を抱えていたのか、そこからどう仕様を詰めていったのかという過程なら書けるはずです。取引先の了承を得て、社名や装置の詳細を出さずに書いたそういう記事は、段階2の人にとっては「自分と同じ状態から始まった話」として読まれます。

そして、忘れられがちなのがオファーをどうするかです。サイトに置く行動の選択肢が「お問い合わせ」だけだと、まだ相談する勇気がない人は何もせずに帰ってしまいます。

段階3の担当者に向けて、費用が決まる要素、検討から据付までの流れ、社内説明で必要になる確認事項をわかりやすくまとめた資料を用意し、PDFでダウンロードできるようにしておく。担当者の稟議の仕事を、少し肩代わりしてあげる発想です。

そのうえで、いきなり商談に誘導するのではなく「構想段階の相談会」や「現場を見せてもらったうえでの簡易診断」のような、一段低い入口を作れるとなおいいと思います。

ちなみに、この業種に限らずBtoBでは、問い合わせフォームがなく電話とFAXだけ、という会社が実は今もあります。頼む内容が決まっている人には不便ではないのですが、段階2の人はFAX用紙を前にして何を書けばいいのか分からない。入口の形そのものが「仕様が決まってから来てください」と言ってしまっているようなものです。

問い合わせが来たあと、どう対応するかまで考えておく

もうひとつ、私がサイトの相談を受けるときに必ず考えるのが、問い合わせが来たあとのことです。私はもともとBtoBの営業をしていたので、ここが弱いと問い合わせが増えても売上にならないことを、それなりに見てきました。

構想段階から来た相談で、あせっていきなり見積書を出すのは間違いです。相手はまだ、何を作ればいいのかを一緒に考えてほしい状態だからです。

最初の打ち合わせでは、現場でどんな作業が起きていて、何が困っていて、誰がその困りごとで一番痛い思いをしているのかを聞く。そのうえで「こういう方向で考えられます」と選択肢を出すほうが、結果的に話が早いです。可能なら現場調査にも行った方が成約率は高まります。

それから、提案書は担当者が社内で回せる形にしておくこと。打ち合わせに来ている人が決裁者とは限りません。むしろ、その人が上司に説明する場面のほうが勝負だったりします。費用の内訳、なぜその仕様が必要なのか、やらなかった場合に何が続くのか。このあたりが資料に書いてあるかどうかで、担当者の動きやすさは変わります。

サイトと営業は別物のように扱われがちですが、私は同じ線の上にあると思っています。サイトで「構想段階から相談に乗ります」と言っておきながら、実際の初回打ち合わせで図面を求めてしまえば、期待とのずれが起きます。

伝えたことと、やっていることを一致させること。そこまで含めてサイト改善だと考えています。

まとめ

M機工に足りなかったのは、技術力でも、デザインのリニューアルでもありませんでした。見込み顧客が検討のどの段階にいて、何に不安を感じているかという視点が抜けたまま、比べる段階の人に向けた情報だけが並んでいたのが原因です。そのため、本来届くはずの人に届いていなかった、というのが今回の見立てです。

図面を持たずに困っている人は、問い合わせをしないまま静かに帰っていきます。アクセス解析の数字にも、このあたりははっきりとは表れませんので、気づきにくいボトルネックなのだと思います。

自社の強みを言葉にして、その強みが響く段階の人に向けたコンテンツとオファーを置き、来た相談を成約まで運ぶ。今回のシナリオは、この順番で考えました。

これは受託設計の会社に限った話ではありません。自社のサイトが、いまどの段階の人にだけ話しかけているのか。一度、見込み客が最初に打ちそうな検索キーワードから、サイトまでの流れを客観的な視点で見てみてください。

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桑原 敬

この記事を書いた人

桑原 敬(Takashi Kuwahara)

代表/プロデューサー

2003年にフリーランスのWebディレクターとして独立。2006年に株式会社桑原敬事務所を設立し、数多くの企業Webサイトや通販サイトの構築やコンサルティングを手がける。
2006年からレベニューシェアでのWebプロデュースを軸としたビジネスを展開し、これまでコンサルティングを行ったクライアントの中には年商が10倍以上になった実績もある。現在はWeb以外の分野でも、働きかたプロデュースなど幅広い分野で活動を行っている。

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