太陽光発電所向け防犯システムのサイトは、なぜ「盗まれた後」にしか見つからないのか?

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太陽光発電所の銅線ケーブルが盗まれる事件が、ここ数年ずっと続いています。

茨城県警の資料を見ると、今年7月末の時点でも茨城県は金属盗の発生件数が全国2位。そのうち4割以上が太陽光発電施設での被害だそうです。銅の建値はキロ2,000円を超え、まだ高値を更新している。盗む側からすれば、狙う理由がなくならないわけです。

そうなると、防犯カメラやセンサーを扱う会社には追い風に見えます。実際、この分野に参入する会社はかなり増えました。ただ、そうした会社のサイトは、見込み顧客がいちばん動く瞬間を拾えていないことが多いように感じます。

架空の会社を題材にサイト改善の考え方を実演する「シナリオ」シリーズ。今回は、太陽光発電所向けの防犯システムを扱う会社のサイトを、どう組み立て直すかを考えてみました。

なぜ、どこのサイトも「カメラのカタログ」になってしまうのか

今回題材にするのは、北関東で電気工事を営んできて、5年ほど前から太陽光発電所向けの防犯システムに力を入れ始めた、従業員20名ほどの会社です。仮にA社とします。もともと発電所の施工やO&M(保守点検)の下請けをしていたので、現場のことはよく知っています。カメラやセンサーはメーカー品を組み合わせて使っています。

A社のサイトを開くと、トップに暗視カメラの映像。その下に「AI検知」「4G通信」「ソーラー電源で配線不要」といった機能が並び、料金プランへのリンクがある。よくある構成です。悪くはないんですが、正直に言うと、競合のサイトとほとんど見分けがつきません。

暗視カメラの映像と機能・製品の紹介が並び、被害直後のオーナーやO&M会社に向けた入口がない、架空の防犯システム会社のサイトイメージ
※架空の会社「A電設」のサイトイメージです

なぜこうなるのか。これは私の考えですが、売る側が「自分たちが何を売っているか」をそのまま書いているだけからだと思います。たしかに、防犯システムの会社は、カメラとセンサーと通信と工事を売っています。だから、それを並べるのは間違っていません。

でも、発電所のオーナーが買っているのはカメラではないんです。

余談ですが、以前、コロナの真っ只中に業務用空気清浄機のWebマーケティングのご相談をいただいたことがあります。商材はまったく違いますが、構造はよく似ていました。売り手は空気清浄機を売ってると考えてますが、買う側はコロナの感染を少しでも避けたいと思っている。不安から人が動く市場では、機能の説明より先に「あなたは今どんな状況で困ってるんですか?」という一言が重要になると思います。防犯も同じです。

見込み顧客は、いつ、どんな気持ちで探しているのか

A社の見込み顧客を「検索する瞬間」で分けてみると、大きく三つのユーザー層がいることがわかります。

盗まれた直後のオーナー

いちばん切実なのがこの層です。ある朝、O&M会社から「発電量がゼロになっています。ケーブルが切られていました」と電話が来る。投資用に低圧の野立て発電所を持っている個人の方だと、発電所は遠方にあって、一度も現地に行ったことがないという方も珍しくありません。

この人たちが最初に検索するのは「防犯カメラ」ではないんです。「太陽光 ケーブル 盗難 どうしたらいい」「太陽光 盗難 保険 下りる?」「太陽光 復旧 期間 どれぐらい」のようなことを検索やAIで調べるはずです。つまり、目の前の後始末です。防犯の話は、後始末のどこかで「また盗まれたらどうしよう」と気づいたときに、ようやく出てきます。

A社のサイトには、この段階に応えるページが一枚もありませんでした。だから検索で出会う機会そのものがない。タイトルに「盗まれた後にしか見つからない」と書きましたが、実際には盗まれた後ですら見つかっていない。そういう会社が多いと思います。

近所の発電所がやられたと聞いたオーナー

二つ目は、近隣の発電所が被害にあったと聞いて「次はうちかも」と思った層です。こちらは時間に余裕がある分、比較検討をします。ただ、この人たちは「いくらかかるのか」と同時に「本当にうちに必要なのか」をずっと迷っている。背中を押すのは機能の説明ではなく、判断材料です。

オーナーから相談を受けるO&M会社

三つ目は見落とされがちですが、もしかするといちばん大事かもしれません。

遠方のオーナーは、現地のことをO&M会社に聞きます。「防犯ってどうしたらいいですか」と相談されたO&M会社が、知っている防犯会社を紹介する。実質的に発注先を決めているのはO&M会社、というケースは少なくないはずです。

BtoBでは、検索している人と決裁者が違うことがよくあります。以前の産業用機械の受託設計の回でも似た話を書きましたが、ここを意識しているかどうかで、サイトに載せるべきページはだいぶ変わってきます。

オーナーが知りたいのは「画素数」ではなく「止まる日数」

防犯会社のサイトを見ていて、いちばんもったいないと感じるのは、使っている言葉がオーナーの頭の中と噛み合っていないことです。

発電所を持っている人は、基本的には投資です。気にしているのは利回りであり、毎月の売電収入。東京海上ディーアールのコラムによると、ケーブル盗難の被害額は低圧で百万円程度、高圧以上だと数千万円から億単位になることもあり、復旧に2〜3か月かかるケースもあるそうです。オーナーにとって痛いのは、ケーブル代そのものより、その間ずっと売電が止まることなんです。

一度、オーナーの立場で計算してみると話がはっきりします。年間の売電収入が200万円の低圧発電所なら、1か月止まるだけで15万円以上が消えます。復旧に3か月かかれば50万円です。そこに修理費、保険の免責分、場合によっては次の更新での保険料アップが乗ってきます。

それに対して、A社のサイトにあったのは「200万画素」「夜間30m検知」というスペックの数字でした。どちらも、オーナーの損益計算には一度も出てこない数字です。

なので、A社のサイトで最初に伝えるべきことは二つだと考えました。ひとつは、この対策で売電が止まるリスクをどれだけ減らせるのか。もうひとつは、万が一被害にあったとき、何日で発電を再開できるのか。

後者は特に、施工とO&Mの現場を知っているA社だから言えることです。ケーブルの手配から再接続まで自社で動けるなら、防犯会社としてはかなり珍しい強みになります。

「法律ができたから、もう大丈夫でしょう?」にどう答えるか

もうひとつ、今だからこその論点があります。2026年6月に、いわゆる金属盗対策法が全面施行されました。銅くずを買い取る業者には届出と本人確認が義務づけられ、去年の9月からは、正当な理由なくケーブルカッターなどを持ち歩くことも規制されています。地域によっては、被害件数が前年より減ったという発表も出始めました。

そうなると、オーナーの中には「もう対策はいらないのでは」と考える人も出てきます。ここで防犯会社がやりがちなのが、「まだまだ危険です」と不安を煽ること。これは逆効果だと私は思っています。オーナーも自分でニュースを見ているので、煽られた瞬間に一歩引いてしまう。

正直に書けばいいと思います。法律で買い取りルートが絞られるのは、確かに効果がある。一方で、件数が減ったといっても茨城県はまだ全国上位で、銅の価格も高止まりしている。だから「すべての発電所に重装備が必要」とは言わない。でも、こういう立地、こういう規模の発電所は優先して対策したほうがいい、と線を引いて見せるのです。

この「線を引く」ことが、実は信頼につながります。何にでも「必要です」と言う会社より、「これは必要ないですよ」と言ってくれる会社のほうが信頼できる。成果報酬型で仕事をしていると、これは本当に実感します。正直にできることできないことを話す姿勢は、お客さんに驚くほど伝わるんです。

A社の強みを、オーナーの言葉で言い直す

A社の社長に「御社の強みは何ですか」と聞いたら、たぶんこう答えると思います。「機器メーカーと組んでいて、24時間監視で、工事も自社でやっています」。間違ってはいません。ただ、競合もほぼ同じことを言っています。

強みを言語化するとき、私がいつもやるのは、お客様が困っていることの側から言い直す作業です。A社の場合、もともとO&Mの下請けをしていたという経歴がカギになると考えました。

防犯専業の会社は、カメラを付けるところまでは得意です。でも、発電所の運用までは見ていない。逆にO&M会社は発電所のことは詳しいけれど、防犯機器の選定や通報の体制まではやっていないことが多い。A社は、ちょうどその間にいます。

これをオーナーの言葉で言い直すと、「盗まれにくくする」と「盗まれても早く戻す」を一社完結でやれる会社。さらに遠方のオーナーにとっては、「現地を見に行けない自分の代わりに、発電所を見ていてくれる会社」です。カメラの性能より、こちらのほうがよほど刺さるはずです。

ここで大事なのは、軸を決めたらぶらさないことです。せっかく防犯カメラを扱っているのだから、店舗や倉庫もターゲットにしたくなる気持ちはよくわかります。でもサイトの軸は「太陽光発電所の売電を止めない会社」に絞る。そのほうが、AIにも人にも「何の専門会社なのか」が伝わりやすくなります。

コンテンツとオファーをどう組み立てるか

被害直後の人のためのページ

まず作るべきは、盗まれた直後のオーナー向けのページです。警察への届け出、保険会社への連絡、O&M会社との段取り、復旧までの流れ、そして再発を防ぐために最初の1週間でやることリスト。これを時系列で、A社が実際に対応してきた順番どおりに書きます。

ここで、いきなり防犯システムを売り込まないほうがいいと思います。後始末の情報が誠実に書いてあれば、読み終えたオーナーは自然と「この会社に相談してみようか」と思うものです。オファーも「無料お見積もり」ではなく「被害後の復旧と再発防止の無料相談」にしたほうが、このタイミングの人の気持ちには合っています。

「うちは対策が必要か」を判断できるページ

近所の被害を聞いて迷っている層には、判断材料を渡します。立地、規模、周辺の道路状況、過去の被害の有無などから、自分の発電所のリスクをざっくり見積もれるページです。前の章で書いた「線を引く」の具体版ですね。

オファーは、現地を見たことがない遠方オーナーに向けて、A社が現地を撮影して状況をレポートする「現地診断」がいいと考えました。オーナーは自分の発電所の今の姿を見られるだけで価値を感じますし、A社にとっては提案の精度が上がる。どちらにとっても損のないオファーです。

O&M会社向けの窓口

最後に、O&M会社向けのページを別に用意します。オーナーから防犯の相談を受けたときに紹介しやすい仕組み、たとえば共同で提案する流れや、紹介したあとの役割分担を明記しておく。O&M会社にとっては自社の顧客満足につながり、A社にとっては安定した紹介ルートになります。

BtoBのサイトで「パートナー募集」のページを作る会社は多いのですが、相手のメリットをちゃんと書けるところは意外と少ないです。ここを丁寧に書くだけでも、ライバルと差はつくと思います。

不安を売るサイトにしないために

最後に、少し自戒も込めて。防犯の商材は、不安を煽れば短期的には問い合わせが結構増えます。

広告文で「被害急増中!」と書けば、クリック率は上がりやすいです。でも、不安だけで動いた人は、不安が薄れると離れていきます。法律の施行で被害が落ち着いてくれば、なおさらです。

A社のサイトが約束すべきなのは「怖いから付けましょう」ではなく、「あなたの発電所がこの先もきちんと稼ぎ続けるようにサポートします」ということだと思います。FITの買取期間は20年。その長さに付き合ってくれる会社かどうかを、オーナーはちゃんと見ています。

デザインやカメラの機能は、その後で伝えればいい問題です。まず、誰が、どの瞬間に、何に困って調べているのか。そこが見えると、サイトに書くべきことは自然と決まってきます。

もし今回のA社に近い事業をされている方がいたら、一度、自社のサイトを「盗まれた直後のオーナー」の目で見直してみてください。最初のページで、その人の不安に答えられているかどうか。そこからだと思います。

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桑原 敬

この記事を書いた人

桑原 敬(Takashi Kuwahara)

代表/プロデューサー

2003年にフリーランスのWebディレクターとして独立。2006年に株式会社桑原敬事務所を設立し、数多くの企業Webサイトや通販サイトの構築やコンサルティングを手がける。
2006年からレベニューシェアでのWebプロデュースを軸としたビジネスを展開し、これまでコンサルティングを行ったクライアントの中には年商が10倍以上になった実績もある。現在はWeb以外の分野でも、働きかたプロデュースなど幅広い分野で活動を行っている。

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