
樹脂や機能性材料を扱う商社のサイトを見ていると、どこも取扱メーカーのロゴがずらりと並び、素材名の一覧があり、物性表のPDFがダウンロードできるような作りです。ただ、正直なところ違いがよく分かりません。
たしかに品揃えは商社の誇りです。何十社、何百社というメーカーと付き合ってきた歴史そのものですから、それをまずは見せたくなる気持ちはよく分かります。
でも、見に来た設計者の側に立つと、少し見え方が変わってきます。現在の課題を解決してくれるのかという視点で見ると、その答えが、品揃えの一覧だけでは伝わりにくいからです。
今回は、樹脂・機能性材料の商社を題材に、サイトの「切り方」の問題を考えてみます。
いつものように、事例ではありませんし、実在する企業でもありません。個人的に気になっていた業種なので、勝手に改善シナリオを考えてみました。
W樹脂商会のいまの営業と、サイトの状態
今回の架空企業は、株式会社W樹脂商会という会社です。エンジニアリングプラスチック(エンプラ)やスーパーエンプラの板・丸棒、つまり切削加工用の素材を中心に扱う専門商社という設定にしました。炭素繊維複合材や機能性フィルムも扱っています。
取引先は、装置メーカーや部品加工会社の設計者と購買担当者です。1回の注文は板数枚ということも珍しくありません。ただ、試作や評価を経て採用されれば、量産部品として継続的な取引になります。試作から採用までは、数か月かかるのが普通です。
対面の営業は強い。でも新しい取引先が増えない・・
W樹脂商会の仕事は、ほとんどが既存の取引先へのルート営業と、仕入先メーカーからの紹介で回っています。ベテラン営業担当者は素材に詳しく、顔を合わせて話せば頼りにされます。その積み重ねで取引先からの信頼も厚い会社です。
現在の課題は、新しい取引先がなかなか増えないことです。ルート営業は今いるお客さんを守るには強いのですが、まだ出会っていない設計者に見つけてもらう取り組みはしてないからです。
余談ですが、私が商社の方とお話しすると、対面での営業にはとても強い一方で、Webでの集客についてはほとんど手をつけていない、という会社が多い印象です。そして、Webマーケティングの話を始めると、ものすごく興味を持って聞いてくださいます。
大手の商社はまた事情が違うと思いますが、中小の商社には「やればできることが、まだ手つかずで残っている」と感じることがよくあります。
サイトは、品揃えのカタログになっている
現在のW樹脂商会のサイトを開くと、トップページには取扱メーカーのロゴが並んでいます。メニューは「取扱素材」「メーカー一覧」「物性表ダウンロード」「会社概要」「お問い合わせ」。素材のページを開くと、素材名ごとに特徴が数行と、物性表のPDFが置いてあります。

デザインもシンプルで見やすく、きちんとした会社に見えますし、素材に詳しい人が見れば、いろいろな素材を扱っている会社だということは分かります。
ただ、しばらく眺めていて引っかかったのは、この会社が誰の、どんな困りごとに答えようとしているのかがサイトを見ても分からないことでした。
顧客は「素材名」で探していない
最初は「探しにくさ」の問題だと思ってました
最初に考えたのは、導線の問題でした。素材の数が多すぎて、目当ての材料にたどり着けない。だから問い合わせにつながらないのではないか、と思いました。
それなら、素材別に並べるのをやめて、用途別に並べ直せばいいのではないか?「摺動部品に使う樹脂」「薬品に触れる部品の樹脂」「高温で使う樹脂」というように。サイトのリニューアルでも、よくやる改善です。
ただ、実際に設計者が検索しそうな言葉で調べてみると、どうもそれでは足りなさそうだと分かってきました。
用途別の解説は、もうメーカーとAIがやっている
設計者がまだ困りごとをぼんやり抱えている段階、たとえば「金属部品 軽量化 方法」のような言葉で検索すると、上位に出てくるのは素材メーカーや加工会社の解説記事です。商社のサイトは、ほとんど見当たりませんでした。
もう一歩進んで、候補の素材を絞り込む段階、「耐薬品性 樹脂 比較」のような検索になると、しっかり書き込まれた解説記事がいくつか出てきます。一方で、素材の一覧表をPDFで置いているだけのページも目立ちました。用途別の整理という仕事は、すでに素材メーカーが丁寧にやっているわけです。
そして今は、そこにAIが加わっています。
試しに、ChatGPTに「PEEKの代わりになる安い樹脂は?」と聞いてみました。

PEEKは耐熱性や耐薬品性に優れた高性能な樹脂ですが、材料費が高いことで知られています。
ChatGPTは、まずPOM、ナイロン、PBT、PPS、PEI、PTFEの6つを候補として挙げ、それぞれの値段の目安と向いている用途を表にしてくれました。PEEKに近い性能が欲しいならPPSから検討するのがおすすめ、というところまで言っています。
面白かったのは、その先です。「3点教えてください。代替候補をかなり絞り込めます」と言って、何に使うのか、使用温度はどのくらいか、切削加工か射出成形かといった形状を、選択式で聞き返してきたのです。
これ、腕のいい営業マンの聞き方そのものなんですよね。いきなり素材を売り込まず、用途と条件を聞いてから絞り込む。顧客の頭の中は「素材名」ではなく、「何に使うか」「どんな条件か」で整理されている。AIはそれをよく分かっています。
ここで、私の最初の考えは崩れました。商社がサイトを用途別に並べ直しても、用途別の解説ではメーカーにかなわないし、AIはもっと手軽に、もっと速く答えてくれる。同じ土俵に乗っても、勝ち目は薄いと思います。
AIが言わなかった「その先」
では、商社の出番はもうないのか。もう一度ChatGPTの回答を読み返していて、表の下にある注意書きに目が留まりました。価格はグレードや形状、購入量、加工方法で大きく変わります、と書いてあったのです。
つまりAIは、「候補はPPSです」までは答えられる。でも、その先の話はできません。そのPPSは、試作用に板1枚だけで買えるのか。使っていた材料が廃番になったとして、代わりの材料を来週までに試せるのか。切削用の丸棒で、この径のものはすぐ手に入るのか。
設計者が本当に困るのは、実はここからだと思っています。候補が分かっても、手元に届かなければ評価も試作も始まりません。そして、ここはまさに商社が毎日やっている仕事です。
「調達の事情」で切り直す
これは私の考えですが、W樹脂商会のサイトは、素材別でも用途別でもなく、顧客が抱えている「調達の事情」で切り直すべきだと思っています。
事情は、大きく三つあると見ています。
ひとつ目は、試作や評価のために少量だけ欲しい人です。設計の初期段階で、候補の材料をいくつか試してみたい。でもメーカーに問い合わせると、ロットが大きすぎて相手にしてもらえない。この人が知りたいのは、素材の物性よりも「板1枚から買えるのか」「何日で届くのか」です。「樹脂 試作 材料 少量」のような言葉で探しているはずです。
ふたつ目は、使っていた材料が廃番や供給停止になり、代わりを急いで探している人です。この人は焦っています。量産ラインが止まるかもしれないし、上司からは「いつまでに代替を決めるのか」とせっつかれている。知りたいのは、同等品の候補と、評価用のサンプルがどれくらいで手に入るかです。「材料 廃番 代替品」と検索するのは、たいていこういう状況のときだと思います。
三つ目は、金属からの置き換えや、コストダウンのために材料を見直したい人です。急ぎではありませんが、社内を説得する材料が要ります。置き換えた場合のメリットとリスク、似たような置き換えの実例、評価の進め方。じっくり読み込みたいタイプの人です。
同じ「樹脂を探している人」でも、急ぎ具合も、読みたい情報も、問い合わせを決める決め手もまるで違います。素材名の一覧では、この三人の誰にも話しかけられていません。
余談ですが、検索結果を見ていて、もうひとつ気づいたことがあります。少量や試作の材料を探す段階になると、すでに広告がかなりの数出ていました。そして「樹脂 商社」のような、取引先を選ぶ段階の言葉では、大手商社のサイトが上位を押さえています。広告のクリック単価もおそらく高いでしょう。
中小の商社が、取引先を選ぶ段階の言葉で大手と正面から戦うのは、かなり分が悪いと思います。でも、廃番で困っている人や、試作で少量を探している人の前には、まだ入り込む余地がある。調達の事情で切り直すことは、戦う場所を選び直すことでもあるのです。
本当の強みは「品揃え」ではなかった
調達の事情で切り直すとしても、それぞれの入口で何を語るかが決まらなければ、サイトは変わりません。結局のところ、成果を出すには自社の強みで戦うしかない。ただ、自分たちの強みは、自分たちではなかなか見えないものです。

もしW樹脂商会の社長にインタビューしたとしたら、こういう流れになると思います。
最初に出てくるのは、業界の標準の答え
「御社の強みは何ですか?」と普通に聞くと、おそらく「品揃えです」という答えが返ってきます。「取引メーカーが多いので、たいていの素材は手配できます」「メーカーとのパイプが太いので、情報も早いです」のような感じです。
どれも本当のことだと思います。でも、品揃えやメーカーとのパイプは、どの商社も同じことを言っています。お客さんから見れば、あまり刺さらない言葉です。
聞き方を変えると、別の話が出てくる
そこで、聞き方を変えてみます。「最近、お客さんに一番感謝された仕事は何でしたか?」と聞いてみます。
すると、たとえばこんな話が出てくるかもしれません。ある装置メーカーで、長年使っていた材料が突然廃番になった。量産部品なので、代わりが決まらないとラインが止まる。相談を受けて、使用条件を聞きながら代わりの候補を三つに絞り、それぞれのサンプルを翌週には届けた。結果、そのうちのひとつで評価が通って、量産を止めずに済んだ、という話です。
社長にとっては、商社としてごく当たり前の仕事だと思います。だから、サイトのどこにも書かれていません。でも、困っていたお客さんにとっては、品揃えの多さよりもずっと大きな価値だったはずです。
強みは「絞り込んで、すぐ手元に届けられること」
この話から見えてくるW樹脂商会の本当の強みは、「何でも扱えること」ではありません。条件を聞いて候補を絞り込み、少量でもすぐお客さんの手元に届けられること、だと思っています。
こう言い換えると、先ほどのAIの話ともきれいにつながります。AIは候補を絞り込むところまでは手伝ってくれる。でも、その材料を実際に手元に届け、評価がうまくいかなければ次の候補を一緒に考えるのは、人の仕事です。W樹脂商会の強みは、AIの答えの「その先」を引き受けられることだったのです。
品揃えは、この強みを支える土台にすぎません。土台を前面に出すのではなく、土台の上で何ができるのかを語る。ここが、強みの言語化でいちばん大事なところだと思います。
事情ごとの入口と、オファーの考え方
ここまでくれば、サイトで何をすればいいかは、だいぶ見えてきます。細かいリニューアルの話までは今回しませんが、考え方だけ書いておきます。
素材の一覧ページは残していいと思います。素材名で探しに来る人もいますから。ただ、トップページの主役からは降ろします。代わりに、三つの事情それぞれに入口となるページを用意する。「試作用に少量だけ欲しい方へ」「材料の廃番・供給停止でお困りの方へ」「金属からの置き換えを検討している方へ」といった具合です。
大事なのは、入口ごとにオファーを変えることです。
廃番で困っている人には、「使用条件を送ってもらえれば、代替候補を絞り込んでお返しします」という相談の窓口がいちばん響くと思います。急いでいる人は、資料をダウンロードしている余裕はありません。今すぐ誰かに聞きたいのです。
試作で少量が欲しい人には、「板1枚から、サンプルを手配します」というオファーが分かりやすい。何日くらいで届くのか、どんな形状なら用意しやすいのか、といった情報も添えてあげると、問い合わせの心理的なハードルがぐっと下がります。
置き換えを検討している人は、まだ社内で説得材料を集めている段階です。この人には、置き換えの検討の進め方や、評価でつまずきやすい点をまとめた資料のほうが合っていると思います。いきなり見積もりを頼む段階ではないので、まずはブログなどの読み物で接点を作る、という考え方です。
これは私の考えですが、こうした事情別のページは、AIに引用されやすいページにもなると思っています。ChatGPTの回答にも、参考にした解説ページへのリンクが表示されていました。具体的な困りごとに具体的に答えているページは、AIにとっても使いやすい情報なのでしょう。品揃えの一覧よりも、ずっと見つけてもらいやすくなるはずです。
問い合わせが入ったあとが、商社の実力の見せ所
問い合わせが来てからが、W樹脂商会の本領です。対面で話せば信頼される営業担当がいるので、問い合わせさえ来れば、ある程度の確率で成約まで持っていける力はすでにあります。
商社を見ていて私が「もったいない」と感じるのは、まさにそこです。成約する力や人はいるのに、その手前の集客の入口ができてないのです。

ひとつだけ添えるとすれば、最初のやりとりで「どのような事情で来た人なのか」を聞き分けることでしょうか。
廃番で困っている人に、置き換え検討の人と同じペースで提案していたら、間に合いません。逆に、じっくり検討したい人に急かすような提案をすれば、引かれてしまいます。どの入口から来たのかが分かれば、最初の返信の速さも、提案の中身も変えられる。サイトを事情別に切り直すことは、営業の準備にもなるわけです。
まとめ
品揃えは、商社にとって間違いなく強みです。でも、それをサイトの切り口にした瞬間、弱点に変わってしまいます。素材名の一覧は、すでに答えを知っている人にしか話しかけられないからです。
実は顧客は素材名であまり探してないのかもしれません。用途と条件で考え、その先では「少量で手に入るか」「急いで代わりが見つかるか」という調達の事情で困っているケースが多いと思います。
用途の整理はメーカーとAIが得意になりました。でも、事情に寄り添って材料を手元に届けるところは、今も商社の人間にしかできない仕事です。
AIが材料を選んでくれる時代だからこそ、商社は「何を扱っているか」ではなく、「どんな事情の人の役に立てるのか」を語ることが大事です。サイトの切り方をひとつ変えるだけで、まだ出会っていない設計者に見つけてもらえる余地は、かなり残っているのではないでしょうか。

