
自社の商品やサービスについて熱く語れるのに、「誰の、どのような課題を解決しているのか具体的に教えてください」と聞いた瞬間、口数が少なくなる人がいます。
「うーん、まあ、取引先ごとに違うからですね」
と、答えになってないような回答をする方も多く、ふとこれは、自分たちの価値を言語化できてないからではないかとました。
商品の話は止まらないのに、「誰の困りごとか」で言葉が止まる
商品やサービスの説明というのは、社内で何百回も繰り返してきた言葉なので話しやすいと思います。展示会でも、営業訪問でも、新人研修でも使うからです。だからトークも磨かれますし、口からもすぐ出てきます。
一方で「お客様の困りごと」を主語にして語る機会は意外と少ないのです。日々の会話は納期と価格ばかりで、その先にいるお客様が本当に何に困って依頼したのかを考える機会があまりないから、言葉にできないのです。

ただ、サイトをリニューアルする時にここが大事になります。
読み手はまだ御社を知らない状態でサイトを開くわけで、その人にとって最初に必要なのは「この会社は自分の困りごとを分かっているか」という部分がわかることだからです。
ここがうまく行ってないサイトは、どれだけデザインが良くても成果は出ません。
自慢を並べたサイトが、なぜ誰にも刺さらないのか
このあたりが言語化されないまま制作が進むと、サイトは自然と自社の自慢の羅列になっていきます。これは制作会社が手を抜いたからではなくて、素材がそれしかないから、そうなるのです。
「技術力があります」は、誰の困りごとにも答えていない
製造業の会社のサイトに「信頼の技術力」や「創業五十年」と書いてある。設備一覧が並んでいて、対応可能な技術が列挙されている。これらは社内の誰もが誇りに思っている内容です。
でも読み手の側に立つと、あまり響かないのはなぜでしょう?それは、そこにリアルな問題解決のシーンが出てこないからです。
たとえば試作品の精度で何度も外注先とやり直しになって困っている技術者がいたとして、その人が探しているのは「確かな技術力」という言葉ではありません。「一個からの試作で、図面が固まりきっていない段階でも相談に乗ってもらえるか」だと思います。困りごとの解像度が、こちらの言葉と噛み合っていないのです。
余談ですが、こういうサイトは社内での評判は悪くないことが多いです。自分たちが大事にしてきたことがきちんと載っているので、社長も現場の方も大体満足してくれます。
だから問い合わせが増えないまま、誰もその原因に気づかず一年、二年が過ぎていくことになります。
うまくいかなかった案件には、共通点がありました
これは私の独立初期の失敗談も含めた話です。振り返ってみると、成果が出なかったプロジェクトには、途中で似たようなやり取りが起きていました。
「忙しいので、そちらでお願いします」
原稿の作成をお願いすると、忙しいという理由で戻ってこない・・・。催促すると謝られるのですが、また戻ってこない。そのうち「うちの会社のことは分かっていただけたと思うので、いい感じでまとめてください」と言われる。
忙しいのは本当だと思います。ただ、ここで一つだけ申し上げたいのは、自社の言葉を他人に任せた時点で、そのサイトは他人がなんとなく作った感じが伝わるということです。
私がどれだけ詳しくヒアリングしても、実際にお客様と向き合ってきたのは私ではありません。現場の人が「そうそう、こういう課題を抱えたお客さんが多いんですよ」と語ってくれた一言に、たいてい答えが入っています。それが出てこないまま完成したサイトは、見た目は整っていても中身が薄いのです。
「Web制作のプロなら、分かってくれているはず」
もう一つが、プロに頼んだのだから、自分たちの事を当然理解して、うまく形にしてくれるだろう、という感じです。
これは半分正しくて、半分違うと思っています。私たちが持っているのは、引き出す技術と、それを構成に落とす技術です。でも「御社が誰を喜ばせたいのか」という答えそのものは、こちらの中にはありません。あるとすれば、それは他社のパターンを借りてきた仮説になります。
先ほどの「忙しいから任せる」と、この「プロなら分かるはず」は、症状としては別物に見えますが、根っこは同じだと感じています。どちらも、強みは社内のどこかに完成品として存在していて、誰かが取り出してくれるものだという前提に立っている。でも実際は、まだ言葉になっていないものを、一緒に掘り出す作業です。
私は成果に対して報酬をいただく形で仕事をしているので、ここが定まらないままお受けするのは、リスクが大きすぎます。依頼をお断りすることがあるのは、やる気がないわけではなくて、お互いに時間を無駄にしてしまう可能性が高いからです。
強みのない会社に会ったことはありません

ここまで厳しめのことを書いてきましたが、一番お伝えしたいのはここです。
二十年以上この仕事をしてきて、本当に強みがゼロの会社には、一度も会ったことがありません。ビジネスとして成立しているという事実そのものが、誰かに必要とされている証拠だからです。選ばれてきた理由は必ずどこかにあるはずです。ただ、それが社長の頭の中に、きれいな一文の形で保管されていることはほとんどない、というだけです。
軸は会議室では見つからない
「うちの強みは何だろう」と社内で議論しても、たいてい出てきません。理由ははっきりしていて、自分たちにとっての当たり前は、当事者には強みとして見えないからです。日常業務でやっていることを、わざわざすごいことだとは思わないはずです。
だから私は、既存のお客様に直接聞いてしまうのが一番早いと思っています。「なぜ、うちを選んでくださったんですか」と。
以前、社長が「うちには強みなんてない」とおっしゃっていた会社で、実際に取引先へ伺ったことがあります。返ってきた言葉は価格の話ではなくて、「何を聞いても、その場で分かる人が出てきて対応してくれる」という内容でした。
社内では単に電話を取り次いでいるだけのつもりだったんです。誰も強みだと思っていなかったものが、お客様にとっては、選定理由だったのです。
これが、私が問題解決力より問題発見力を大事にしている理由でもあります。解決策は探せば見つかりますが、そもそも何が価値なのかを取り違えていたら、全部の努力が無駄になってしまいます。
リニューアルの前に、社内でやっておいてほしいこと
制作会社を探し始める前に、一つだけ試してみてほしいことがあります。「誰の、どんな困りごとを、どういう状態に変える会社なのか」を、一文で書いてみることです。
書けたなら、リニューアルはうまくいきます。書けなくても、落ち込む必要はまったくありません。直近で受注できた三社から五社くらいに、選んだ理由を聞くところから始めればいいのです。
営業の担当者が覚えている雑談レベルの言葉で十分です。むしろ整った回答より、そういう断片のほうが使えます。
これは私の考えですが、この作業をした会社は、その後の判断が速くなります。どのページに力を入れるのか、どの実績を前に出すかなど。軸がある会社は、制作しながらあれこれ迷わない傾向があります。
リニューアルしても成果が出ない会社に足りないのは、強みではありません。強みを言葉にする機会が、これまで一度もなかっただけだと思います。
そして、その言葉は社内をいくら掘っても出てこないことが多く、意外とお客様が過去に言ってくれた一言の中に落ちています。サイトをリニューアルする前に、そこを思い出してみてください。御社にも、必ず軸はあるはずです。

