
「うちはいい仕事をしているから、きちんと見てもらえればわかってもらえるはず」この言葉を、これまで何度聞いてきました。その言葉を口にする経営者のほとんどは、真面目で、誠実で、本当にいい仕事をしている方たちです。
結論から言うと、信頼は、黙っていても伝わるものではありません。伝えようとする努力を積み重ねることでしか、構築できないと私は思っています。そしてこの認識のズレこそが、中小企業のホームページで成果が出ない理由になっているのではないかと考えています。
「いいものは伝わるはずだ」という、善意の思い込み
「うちはいい仕事をしているから、きちんと見てもらえればわかってもらえるはず」と言っている本人に悪意は全くありません。むしろ逆で、現場で真摯に仕事をしてきた自負と、長年のお客さんとの信頼関係に裏打ちされた、純粋な自信から出てくる言葉だと思います。
でも、残念ながらそれは思い込みなのです。
「いいものは伝わる」という信念は、日本の職人文化の中で醸成された、ある種の美学だと思います。腕があれば口は要らない、背中で語れ、という世界観といえばわかりやすいかもしれません。人間同士の深い関係の中では、それが成立することもありますよね。長年付き合ってきた取引先、現場で汗をともにかいてきた仲間たち。そういう方たちには確かに、言葉を尽くさなくても伝わることがあります。
しかし問題は、Webマーケティングにおける新規顧客獲得の場面では、その前提が一切成立しないということです。ホームページで初めてあなたの会社を知った見込み客は、あなたのことを何も知らない状態にあります。現場での仕事ぶりも、スタッフの人柄も、長年の実績も、何も見えていない状態でジャッジしなければならないのです。そしてその判断にかける時間は、多くの場合、数十秒から数分にすぎません。
「伝わるはず」という前提で作られたホームページは、その数十秒で全く刺さらないのです。
見込み顧客は「あなた目線のサイト」に気づいている
あなたの会社のホームページを、一度「全く知らない他社のサイト」だと思って見てみてください。
トップページに並んでいるのは、どんなコンテンツでしょうか。代表挨拶、会社概要、事業内容、スタッフ紹介、おそらくこのあたりが多いと思います。それ自体は間違っていません。ただ、その中身の「方向性」が問題になってきます。
「弊社は創業〇〇年、長年にわたってお客様に信頼されてきた実績があります」 「最先端の技術と豊富な経験で、お客様のニーズにお応えします」 「スタッフ一同、誠心誠意対応いたします」
これは全て「自分たちが言いたいこと」であって、「見込み客が知りたいこと」ではありません。
見込み客が本当に知りたいのは、「自分と同じような課題を抱えていた人が、この会社と取引して課題は解決できたのか」ということです。「なぜこの会社に頼んだほうがいいのか」という理由になります。また、「問い合わせたら、どんな対応をしてもらえそうか」という安心感です。自分たちの問題解決への具体的な見通しを求めているのです。
写真一枚を選ぶ判断にも、同じ「方向性」が現れます。スタッフが整列した集合写真、社屋の外観写真、これらは確かに見栄えがいいですよね。しかし見込み客の立場で見るとあまり興味がなかったりします。
これは私の考えですが、BtoBビジネスの信頼は見た目の「カッコよさ」では生まれません。カッコよさが必要な業界もありますが、多くのBtoB中小企業に必要なのは「リアルさ」だと思っています。現場の生々しい感じ、問題に向き合っている真剣な表情、顧客との関係性がにじみ出るような瞬間こそが信頼を作るのです。
信頼は計算できないが、努力はできる
私がこれまで関わってきた案件の中で、信頼獲得という観点でとりわけ参考になると感じている事例があります。古くなったパソコンの延命サービスを提供している会社、日本PCエキスパートさんの取り組みです。
この会社が取り組んだのは、実際にサービスを利用したお客様へのインタビューコンテンツの制作でした。「古いパソコンの延命」という、多くの方がなじみのないサービスを理解してもらうために、お客様自身の言葉で語ってもらう形式にしたのです。
なぜこれが効くのでしょうか。
会社が自分たちで「弊社のサービスは信頼できます」と言っても、見込み客はどうしても半信半疑になります。それは当然のことで、自分たちの利益のためにそう言っているかもしれないという疑念をぬぐい切れないからです。しかし第三者、特に「自分と似た立場のお客様」が語る言葉には、別の重さがあります。利害関係がないからこそ、信じてもらいやすいのです。
インタビューの内容自体が重要なのは言うまでもありません。しかしそれ以上に大切なのは「事実」だと思っています。会社の言葉ではなく、お客様の言葉でサービスの価値が語られているという事実が、信頼の構造を変えます。「あなたと同じ課題を持っていた方がこの会社を選んで、こうなった」というストーリーは、どんな巧みなコピーよりも説得力を持つのです。
これは信頼を「計算して構築した」というより、信頼が生まれる仕組みを整えたということだと思っています。努力によって、信頼が生まれやすい環境を作った、というほうが正確かもしれません。
信頼そのものは計算できません。でも、信頼が生まれやすい土壌を作ることはできます。その努力を惜しまないことです。それこそが、選ばれる会社と選ばれない会社の、意外なほど大きな分岐点になっていると思います。
実力以上に見せようとすると、逆に信頼を失う
ここで少し別の話をしたいと思います。
信頼が大事だという話をすると、「ではもっとよく見せなければ」という方向に走ってしまう方がいます。制作会社に頼んでカッコイイデザインのサイトを作り、実績をできる限り大きく見せ、資本金や従業員数は書かずにおく・・ざっというとそういう方向です。
余談ですが、これを「盛る」といいますよね(笑)
盛った会社は、バレます。
BtoBの見込み客であるビジネスマンは、それなりにリテラシーが高いものです。ホームページが豪華でも、すぐに気づいてしまいます。そして、そのギャップが信頼を大きく損ないます。
「思っていたのと違う会社だった」という印象は、発注リスクとして認識されます。本当はどんな会社なんだろう、他に何か隠していることはないだろうか?そういう疑念につながっていくのです。
盛ることのリスクは、いずれか表面化します。そしてその損失は、最初から正直にしていた場合の比ではありません。
ただ、誤解していただきたくないのは、私は「過小に見せろ」と言いたいわけではないということです。ありのままを見せればいい、ということが言いたいのです。
そしてここに、もうひとつの落とし穴があります。
真面目な経営者の方ほど、実力以下の見せ方をしていることが多いのです。謙虚さゆえに成果を強調しない、実績を書くことを自慢のように感じてためらう、写真撮影を「大げさだ」と敬遠する、そういう姿勢が、コンテンツに如実に表れてしまいます。
実力以上でも実力以下でもなく、実力どおりに見せること。これが一番難しく、そして一番大切なことだと思っています。
では、何から手をつければいいのか
「わかった、伝える努力が必要だ」となった時に、多くの方が最初に考えるのはデザインのリニューアルや、ページ数の増加だと思います。しかしそれは順番が逆だと私は感じています。
まず問い直すべきは「誰に、何を伝えたいか」というコンセプトです。
このコンセプトを明確に答えられない限り、どんなにきれいなサイトを作っても、どんなに豊富なコンテンツを積み重ねても、的が外れたまま発信し続けることになってしまいます。
誰にというのは、ターゲットの業種や規模だけではありません。その方が今、どんな状況にいて、どんな課題を抱えていて、何を不安に思っているか。その解像度が高いほど、コンテンツの「刺さり」は変わってきます。
何をというのは、自社の強みの羅列ではありません。「この会社を選ぶことで、見込み客の人生や事業がどう変わるか」という視点で考える必要があります。
この整理ができたうえで初めて、「どう伝えるか」の話になります。
ホームページは、24時間365日稼働する営業担当だと私は考えています。しかしその営業担当が「自分たちが言いたいことを一方的に話し続ける人」だったとしたら、どうでしょうか。それは、相手の話を聞かずに自社のパンフレットを読み上げ続ける営業マンと変わりません。
いい営業担当は、まず相手の状況を理解しようとします。相手の課題に共感し、その解決策を提案する。そして信頼を積み重ねることで、最終的に「あなたに頼みたい」と言ってもらえます。
ホームページも、同じ設計でいいのです。
信頼は、黙って待っていても来ない
「うちはいい仕事をしているから、わかってもらえるはずだ」
この言葉の裏にある仕事への誇りと自信は、本物だと思います。そしてその誇りは正しい。問題は、誇りと努力は別物だということです。
いい仕事をしていることと、それが見込み客に伝わっていることは、全く別の話だと思っています。信頼は、相手が勝手に感じ取ってくれるものではありません。伝えようとする継続的な努力の上に、少しずつ積み重なっていくものです。
実力以上に見せる必要はありません。しかし、実力どおりに伝える努力は必要です。

誰に、何を、どのように。この問いに向き合い続けることが、「いい会社なのに選ばれない」という状況を変える、唯一の方法だと私は考えています。

