ロボットハンド・治具メーカーのサイトは、なぜSEOを頑張っても問い合わせが来ないのか?

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Webマーケティングシナリオ

このコーナーでは、架空の会社を題材に、私ならどうサイトを改善するかを考えています。

今回取り上げるのは、産業用ロボットの先端に取り付けるハンドや、ワークを固定する治具を設計・製作している会社です。個人的に気になっていた業種なので、勝手に改善シナリオを考えてみました。

どの業種のサイトを見ていても、私がいつも気になるのは「この会社は、新しいお客様をどうやって見つけているんだろう」ということです。ロボットの周辺治具は、そこがとくに引っかかる業種でした。

ロボット周辺治具関連のサイトを見ると、SEOに力を入れている会社もあります。「治具 設計」「ロボットハンド 特注」といったキーワードで上位を狙ったページもあって、事例も掲載されていました。

それでも、新規の問い合わせはあまり多くないように見えます。検索順位の問題だと思っていたのですが、調べていくうちに、どうもそこではないように思います。

株式会社R技研と、SIerから回ってくる仕事

今回の架空の会社は、株式会社R技研とします。製造業が集まる地方都市にある小さな設計・製作会社で、産業用ロボットの先に付けるハンド(グリッパー)や、ワークの位置決め治具を作っています。規格品は持っていません。すべてが一品一様の特注品です。

金額はハンド1つで100万円前後、ライン一式の治具になると数百万円の規模になります。ロボットの導入やラインの組み替えの計画と一緒に動くので、検討には1〜3ヶ月かかるのが普通です。

仕事のほとんどは、付き合いのある数社のロボットSIer(システムインテグレーター)から来ます。SIerが工場から自動化ラインを受注すると、そのうちハンドと治具の部分がR技研に回ってくる。そういう構造です。

この構造のよいところは、営業しなくても仕事が来ることです。ただ、仕事の量はSIerの受注しだいで波があります。自分たちから新しいお客様を開拓する手段は、事実上ありません。展示会にはときどき出展していますが、名刺交換で終わることがほとんどです。

そこで社長は、「サイトから直接問い合わせが来るようにしたい」と考えて数年前にサイトを開設しました。会社概要、設備一覧、製作事例の写真を多めに掲載し、「治具 設計 製作」「ロボットハンド 特注」で上位を狙ったページも用意しています。製作事例にはハンドの写真と、品名や簡単な仕様が並んでいます。

デザインもシンプルでちゃんとした会社には見えます。ただ、このサイトは「検索してくれた人が来るのを待つ」という前提で作られています。この前提が、今回の話の出発点になります。

ロボットハンドと治具の製作事例が品名と仕様だけで並び、どんな困りごとを解決できるかが書かれていない、架空の治具メーカーのサイトイメージ
※架空の会社「株式会社R技研」のサイトイメージです

「ロボットハンド 特注」と検索する人は、ほとんどいないのでは?

正直に言うと、R技研のサイトを最初に見たとき、私も「主要なキーワードの検索順位が上がれば問い合わせは来るのかな」と考えていました。ページの作りもしっかりしているので、あとはコンテンツSEO用の記事を増やして、競合より上に表示されればいいのではないかという、よくある見立てです。

ところが、狙っているキーワードを見直していくと、別のことが気になりはじめました。「ロボットハンド 特注」「治具 設計 製作」と検索する人は、そもそもどれくらいいるんだろう、と。

ロボットハンドを特注で作ろうと決めている人は、すでに頼む先の当てがあることが多いはずです。付き合いのあるSIerがいて、そのSIerが協力会社に回す。R技研がいま仕事をもらっている流れそのものですよね。つまり、商材名で検索する人は数が少ないうえに、その多くはすでに発注先が決まっている人だと思っています。

上位を取れても、その先にいる人がほとんどいない。順位を上げる努力が無駄だとは思いません。ただ、本当のボトルネックはそこではないのではないかと感じました。検索されない商材なのに、検索されるのを待つ作りになっていること。今回いちばんもったいないのは、ここだと思います。

見込み顧客は商材名ではなく、困りごとで探している

では、R技研のお客様になりうる人は、どこでどうやって探しているのか。

最初に思い浮かぶのは、工場の生産技術の担当者です。ロボットを入れたものの、ワークがうまくつかめずに落ちる……。品種が変わるたびにハンドを付け替えるのに時間がかかる……。こういうとき、担当者は「ロボットハンド 特注」と入力して探しません。

例えば、「ロボット ワーク 落下」のように、目の前で起きていることをそのまま打ち込むような気がします。このときに欲しいのは製作会社の紹介ではなく、「なぜ落ちるのか、どうすれば直るのか」のヒントになる情報です。

少し調べが進むと、「柔らかいもの つかむ ロボット」のように、解決の方向を探す言葉に変わります。ここで知りたいのは、自分のワークと似たものをつかめた例があるかどうかです。品名と仕様だけの事例写真では、自分のワークに当てはまるのか判断できません。

もう一人、見落としやすいのがSIerの設計者です。SIerは自分たちでハンドを作ることもありますが、手に負えないワークに当たると協力先を探します。設計者は専門家なので、使う言葉はもう少し技術寄りになります。それでも探しているのは「このワークをつかめるところ」であって、治具メーカーの一覧ではありません。

工場の担当者とSIerの設計者では、同じ困りごとでも言い方が違います。ただ、どちらも商材名ではなく困りごとから探している点は同じです。R技研のサイトに足りないのは、この困りごとの言葉で入ってきた人の受け皿だと思います。

困りごとは、検索窓よりもAIに相談されるようになってきた

余談ですが、先日クライアントの日本ピーシーエキスパートさんから、こんな報告を受けました。新しく来たお客様に「弊社を何で知りましたか」と聞いたら、「AIが教えてくれた」と答えた人がいたそうです。

この話を聞いて、BtoBでも困りごとの探し方は、検索窓から、AIに聞く形へ移りつつあるのかもしれないと感じました。AIに相談する人は、キーワードを考えません。「ロボットで食品をつかもうとすると潰れてしまう。どうすればいい?」と、困っていることをそのまま文章で打ち込みます。最近は、音声でAIに相談する人もいますよね。

AIはその相談に答える中で、解決できそうな会社の名前を挙げることがあります。ただ、挙げてもらうには、どの困りごとをどう解決したかが、どこかに書かれている必要があると思っています。「一品一様に対応します」のような特徴が書いてあるだけのサイトは、相談の文章と結びつきようがないんです。

これは私の考えですが、検索母数が小さい商材ほど、AIに相談される時代の恩恵は大きいかもしれません。検索ボリュームの数字には表れない相談が、AIの向こう側で起きているからです。

母数が小さい市場では、アクセス数を目標にしない

検索母数が小さいとわかったうえで、どう設計するか。私がまず変えたいのは、目標の置き方です。

R技研のような会社がアクセス数を目標にすると、どうしても検索数の多い一般的な言葉に寄っていきます。「産業用ロボットとは」「自動化 メリット」のような記事を書いて、アクセスは増えたけれど問い合わせは増えない。実際によくあるパターンです。

それよりも、「この困りごとならR技研が解決できる」とわかるページが、困りごとの数だけある状態を目指したいと思っています。潰れやすいワーク、油で滑るワーク、形がそろわないワーク。困りごと1つにつき、ページ1つです。

1件の相談が数百万円の仕事になりうる商材なので、訪れる人が少ないページでも、その人が本当に困っているなら十分に意味があります。アクセス解析で見るべきなのも、全体のページビューではなく、困りごとのページから相談に進んだ人がいたかどうか。母数が小さい市場では、数字の見方そのものを変える必要があると思っています。

「一品一様に対応します」は、強みではなかった

困りごとの入口を作るといっても、どんな困りごとでも引き受けられるわけではありません。成果を出すには、自社の強みで勝てる困りごとに絞るしかないと思っています。ただ、その強みは、会社の中にいる人ほど見えていないものです。

もし私がR技研の社長にインタビューしたとしたら、こういう流れになると思います。

「御社の強みは何ですか?」と聞くと、まず「一品一様で対応できること」「設計から製作まで社内でやれること」「納期が早いこと」が出てくるはずです。どれも嘘ではありません。ただ、この業界の会社なら、ほとんどどこでも同じことを言います。特注品を作る会社にとって、一品一様は強みではなく前提なんですよね。

そこで、聞き方を変えます。「最近いちばん苦労した案件は何ですか?」「ほかで断られて、回ってきた仕事はありますか?」。強みを聞くより、具体的な案件を聞くほうが、本当の強みは出てきやすいと思っています。

たとえば社長が、こんな話をしたとします。SIerが自社で作ったハンドでは、柔らかい食品が潰れてしまう。別の案件では、油の付いた部品が滑って落ちる。形のばらつく鋳物で、位置が安定しない。どれも、どこかで一度「ロボットでは無理かもしれない」と言われてから、R技研に回ってきた案件だった。

ここまで聞けると、強みの言い方が変わります。「一品一様に対応できる」ではなく、「ほかでつかめなかったものを、つかめるようにしてきた」です。社長にとっては当たり前の仕事でも、外から見るとそこに一番の価値があると思います。

しかもこの強みは、前の章で書いた困りごとの入口とそのまま重なります。「ワークが潰れる」「滑って落ちる」と相談している人に対して、「それを解決してきた会社です」と言える。強みと、見込み顧客が探している言葉が一致する。検索母数が小さい市場で勝つには、この一致が欠かせないと思っています。

「つかめるか、試してみます」というオファー

強みが見えたら、コンテンツの中心も変わります。品名と仕様を並べた製作事例ではなく、「つかめなかったワーク」ごとの解決の記録にしたいところです。何が起きていて、なぜつかめなかったのか。どう考えて、どう解決したのか。

BtoBでは業界によって、守秘義務の関係で実績を出せないという声もよく聞きます。たしかに、写真や取引先の名前は出せないことが多いと思います。ただ、「柔らかくて潰れやすい食品を、どういう考え方でつかめるようにしたか」なら、取引先が特定されない形で書けるはずです。読む側が知りたいのも、写真よりそちらだと思います。

そのうえで、オファーは「つかめるかどうか、試してみます」という相談の形にしたいところです。困っているワークを送ってもらい、つかめそうかどうかを検証して返す。「お問い合わせはこちら」よりも、困りごとを抱えた人にとってはずっと声をかけやすいはずです。

もちろん、検証には手間がかかります。どこまでを無償でやるかは、会社ごとに線を引く必要があると思います。ただ、商品の単価を考えると、この入口に手間をかける価値は十分にあるのではと思います。

問い合わせのあとは、SIerを敵にしない提案を

問い合わせが来たら、初回の打ち合わせで聞きたいことはほぼ決まっています。ワークがどんなものか。どれくらいの速さで処理したいのか。そして、これまでに何を試して、どううまくいかなかったのか。とくに最後の「うまくいかなかったこと」は、提案の出発点になります。

もう一つ考えておきたいのが、工場から直接問い合わせが来たときの営業対応です。ロボットのラインにはたいていSIerが関わっています。そこでR技研が単独で入り込もうとすると、いまの取引先であるSIerとの関係がぎくしゃくしかねません。

これは私の考えですが、提案書はSIerと組むことを前提に作ったほうがいいと思います。ハンドの部分はR技研が引き受け、ライン全体は付き合いのあるSIerと進める。工場の担当者からすれば、ライン全体の責任を持つ相手がいるほうが、社内で稟議も通しやすいはずです。

そうすると、サイトから来た問い合わせが、SIerにとっても新しい仕事になります。下請けから抜け出すことと、いまの取引先との関係を守ること。この二つは、両立できると思っています。

まとめ

最初の問いに戻ります。この会社は、新しいお客様をどうやって見つけているんだろうか?

R技研の場合、その答えは「見つけていない」でした。SIerから回ってくる仕事を待ち、サイトでも検索されるのを待っている。ただ、商材名で検索する人はほとんどいません。順位を上げても、その先で待っている人がいないんです。

検索されない商材でも、困りごとは毎日どこかで起きています。ワークが潰れる。滑って落ちる。その困りごとは、検索窓やAIへの相談という形で、すでに言語化されてます。だから、その言葉の先に、自社の強みで解決できるとわかるページを置いておく。検索母数が小さい市場での新規開拓は、ここから始まると思っています。

もちろん、これで問い合わせがすぐに増えるとは限りません。困りごとのページは一つずつ増やしていくもので、時間もかかります。それでも、ただ順位を追いかけ続けるより、ずっと成果につながる余地はあると思っています。自社の商材も検索されていないかもしれない。そう感じた方は、一度「お客様は何に困って、何と打ち込んでいるのか」を考えてみてください。

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桑原 敬

この記事を書いた人

桑原 敬(Takashi Kuwahara)

代表/プロデューサー

2003年にフリーランスのWebディレクターとして独立。2006年に株式会社桑原敬事務所を設立し、数多くの企業Webサイトや通販サイトの構築やコンサルティングを手がける。
2006年からレベニューシェアでのWebプロデュースを軸としたビジネスを展開し、これまでコンサルティングを行ったクライアントの中には年商が10倍以上になった実績もある。現在はWeb以外の分野でも、働きかたプロデュースなど幅広い分野で活動を行っている。

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